型破りな物語の「型」を知る
――神は細部に宿ると言う。
小説はディテールを書き込むことで「人間」を描写する。
「人間」さえ書けていれば、
トリックやどんでん返しやオチなどは必要ない。
「人間」さえ描けていれば、それだけで充分面白い。
ただ、それを書くのがむずかしいのだ。
長い地道な描写の修練と、人間観察の手間、
そしておそらくは文章の才能が必要だ。
ところが、書き手には常に時間がない。
応募したい大賞の締め切りまであと3ヶ月。
あるいは、発表会まであと1ヶ月。
もしくは、オリジナルストーリーのプレゼンが明日の朝に迫っている。
正論には納得するが、実際のところ手間はかけられない。
締め切りは才能以前の問題だ。
一刻も早く、誰が読んでも面白いストーリーを
ひねり出さねばならない状況なのだ――――
そんなあなたのために「面白い物語の型」をテンプレートにしました。
どんでん返しという娯楽作品には欠かせない技術を中心に据えて、
読者がついつい引きずり込まれるストーリー展開の土台を作りました。
これが創作法の全てだなんて言いません。
ただし、これを知っていると知らないとでは、随分効率に差が出ます。
「型」というのはそういうものです。
これまで、その強烈な独自性ゆえに日の目を見ることのなかった
あなたの悪魔の如き才能は、型に嵌めることでついに完成するのかもしれません。
むしろ型に嵌めることで、これまであなたを逆に狭い枠に閉じ込めていた
ユニークなるがゆえの「非客観性」や「わがまま」の排除が可能になり、
はじめて他者と感覚を共有でき、あなたの独自性が伝わる…。
そう、「型」こそがその輝きを引き出す唯一の鍵かもしれないのです。
天才作曲家モーツァルトは「型」を駆使して
数多くの名曲を生み出し続けました。
例えば「ジュピター音型」(C→D→F→E)というものがあります。
古くから多くの作曲家に使われていた「型」ですが、
モーツァルトも大のお気に入りでした。
この「型」は、8歳で作曲された交響曲第1番をはじめ、
生涯を通じてさまざまな楽曲に使われ、
最後の交響曲である交響曲第41番『ジュピター』にも用いられています。
短い人生にたくさんの楽曲を作り出した天才の秘密は
「型」を使いこなすことにあったのです。
「型」を知り抜き、踏襲することによって、
「自分が表現したいイメージ」の核心にすばやく到達し、
しかもその「型」を破っていく。
貴重な時間を消費して「よくある話」を作ってしまう愚を避けるには、
逆に「よくある話」のパターンを土台にして
自分だけの「どこにもない話」に変えていくことです。
最も悲惨なのは、古今東西のストーリーで頻繁に使われている
代表的な「型」を知らないこと。
そして、長い歴史を通じて人類が築き上げてきた物語の基礎工事たる
「型」の合理性に無自覚なこと。
誰もが知っているおなじみのパターンを応用して、
誰も見たことのない世界を無尽蔵に生み出すには
どこをどう使えばいいのか?
何に注意して書けば能率的なのか?
「型」を軽んじてはいけません。
それは神話にも登場するほどの歴史を持つ、
何千年にも及ぶ人類の遺産です。
新しいものを生み出すためには伝統を知らなければなりません。
いったん型に嵌めることで、初めて反発が生まれ、
型を破ることができるのです。
試してみましょう。
気に入らなければ使わなければいいのです。
「型」を知ることにリスクはないはずです。
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