●物語をドラマチックにするために
ぴこ蔵「お次のテーマは『ストーリーの基本形』!
まあ、ストーリーのパターンと言っても相当あるし、
その作り方に到っては星の数じゃ。
決して誤解して欲しくないのじゃが、わしは、
唯一絶対のストーリー製作法を教えるわけではないぞ。
そんなことはあり得ない! 不可能じゃ!
ただ、最低限これさえ知っておれば、
少なくとも
お主のストーリーが途中で道に迷うことはない。
…という
非常に実戦向けに簡略化した方法を伝授しようと思う。
この方法を用いて、とにかくひとつでもいい、
ストーリーのあらすじを最後まで作って欲しいのじゃ!
一つ出来たらもう一つ。
これを何度も繰り返すことによって、
創作の要点が掴める。
何事も経験、そして反復練習じゃ!
アタマで考えてテクニックを選んでおるようではまだまだ。
無意識にさまざまな技法を繰り出せるようになるまで
とにかくあらすじを作りまくることじゃ!
1日1あらすじ! これが目標じゃ!
説明のために、あらすじの実例を2つ用意してある。
それでは、よくある失敗例として、
まずは実例(1)を読んでもらおうかの。
★★実例(1)
パチンコ台には巨大な龍が描かれていた。
その両眼は主人公をにらみつけている。
主人公は今日も朝から暇つぶしにパチンコ屋で
玉をはじいている。
いくつになっても定職につかないことに腹を立てて
自分を勘当した亡き父も、会社の帰りに
よくこのパチンコ屋に通っていたことを思い出す。
腹が減ったのでパチンコを中断し、近所の立ち食いそば屋で
たぬきそばを食べていると、誰かに肩を叩かれた。
振り向けば兄が立っていた。やはり暇そうである。
仕事は休みかと問いかけると、兄はうなずいてそばをすすった。
主人公は兄とパチンコ屋に戻って新しい台を探す。
隣同士に座って顔見知りの男の噂話をした。
その男は親が急死して家業の米屋を引き継いだのだ、
と主人公が言った。
「米屋もあれだけどコンビニ経営もいいよな」兄は言う。
「実はリストラされちゃってさ。一緒にコンビニやるか?」
突然の兄の申し出に主人公はどう答えてよいかわからない。
相変わらず玉も出ない。
最後の玉が無くなった時、
昔、亡き父がよく歌っていた歌が店内に流れた。
その瞬間、
今は亡き父の思い出とともに一つの言葉が
主人公の脳裏に甦った。
「兄貴を見習って就職しろ」
主人公はタバコが吸いたくなる。
しばらく止めていたタバコを兄からもらって火をつける。
どうってことはない、またひとつ禁煙が終わっただけだ、と思う。
パチンコ台の龍は主人公を叱るかのようににらみつけている。
主人公は「別に何でもいいけどな、俺の方は」と呟いた。
ぴこ蔵「どうじゃな? ↑の例は?」
ブンコ「うっわ~。やる気ないっつーか退屈っつーか
本当に何も変わんないなー。
でも、よく見かけるんだよよねー、こんな感じのハナシ」
ぴこ蔵「パチンコしてそば食ってタバコ吸っただけじゃからなあ」
ブンコ「『俺、小説書いたんだけど、読んでくれない?』とか言って
こういうの読ませられたことあるんだけどさー。
悪いけど正直たまんなかったっす。
こんな話を聞いても「ドラマチックねえ」とは思わないよねー」
ぴこ蔵「つまり、誰とも対立しないこんな話にはドラマがないんじゃ。
これではいつまでたっても物語が動き出さん。寝たきりじゃ」
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