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2008年2月6日水曜日

「穴」:児童文学にこれほど満足するなんて



銀座をぶらぶらしていたら教文館書店で
ロアルド・ダールの「チョコレート工場の秘密」の新装本を見つけた。
全集の第1巻なのだそうだ。

しかも訳者はジョイスの「ユリシーズ」を訳した
柳瀬尚紀である。
これは買っておこう。

ウンパッパ・ルンパッパ人という
歌の好きな民族が出て来て
いろんな歌を歌うのだが、
この歌詞が素晴らしいラップに仕上がっている。
さすがは脚韻遊びの御本家、柳瀬大先生である。

ジョニー・デップ主演の映画も面白かった。

児童文学には本当に名作が多いのじゃ。


今日ご紹介したいのは、ルイス・サッカーの
」という作品じゃ。

スタンリー・イェルナッツという名前の少年が
ある日、濡れ衣を着せられ、砂漠の更正施設に送られる。

そこでは極悪女所長による理不尽な強制労働が待っていた。
毒トカゲだらけの砂漠に穴を掘るのだ。

しかし、この地獄の作業には秘密の目的が隠されていた。
しかもイェルナッツ家に伝わる伝説と関係があるらしい。

一族に刻印された不運の宿命を
4代目イェルナッツは大逆転できるのか?!

ニューベリー賞、全米図書賞ほか多数受賞。
おなかの底から元気がわいてくる冒険文学なのじゃ。

とにかくその緻密さに感動して欲しい。
細かいデータが書いてあることとは違うぞ。
“人間性”に対する考察の深さなのじゃ。

一つ一つのエピソードがよく磨きこまれて
絶妙に配置されておる。
よい構成がよいオーケストラのように心に沁みる。
しかも乾いておる。
出てくる大人はワルばかり、子供もあくまで意地悪じゃ。
アメリカじゃな。

しっかり作られたエンタテインメントを読んでいると、
「構成」の重要さに気がつく。
「穴」では、何本も走るストーリーラインの書き方に
注目してほしいものじゃ。

しかし、それだけではないぞ!

おそらくおぬしはこれを読んで感動を覚えるじゃろう。

こんなヘンテコな話なのに、なぜか感動する。

こればっかりは構成の技術だけでは作り出せない。

技術がなければ物語は書けないが、
技術だけでは感動させられないのじゃ。

技術はあくまでも入れ物である。
中にどんな感動を盛り込むかが本当の勝負。

まあ、そのためには作者の経験や覚悟、
知力、胆力、人間性が問われることになるのじゃが……。

面白いものが作りたければ
まずは自分が感動すること。

そう、
とにもかくにも名作の条件とは『感動する』ことなのじゃ。

そして、その『感動』の焦点はどこにあるのかを
必ず捉えてくだされ。

どのページの何行目のどの言葉を読んだときに
自分が感動のピークを迎えたかをしっかり把握すること。

その理由はなぜか、どんな伏線が敷かれていたのか。
自分に問いかけるのじゃ。

なぜ? なじょして? どげなわけで?

そこから全ては始まる。自分が見えてくる。

」は、いくつもの複雑な伏線を扱い、
しかも構成がしっかりしているので
そういう分析的な読み方も非常に試みやすい。

児童書とは信じがたいほど味わいの深い一冊なのじゃ。

シガニー・ウィーバーの出演で映画化もされておる。
こちらもなかなかよい出来でしたぞ。